1年前から右下の奥歯が痛かった。

『まさに精神力の男』と呼ばれたことのある僕は,
『痛いのは自分の歯じゃない。他人の歯だ!』と
無理矢理思い込み、自己暗示をかけることによって、
痛みを感じなくさせる技の持ち主である。

暗示をかけずに食事をしている時など、
悲鳴を上げる程の痛みに襲われることもあったが、
持ち前の精神力で乗り越え、日々を過ごしていた。

久しぶりに大阪に来たので、
時間のあるときに治療しておこうと、歯医者に行くことにした。
(決して弱音を吐いたわけではない。)

レントゲンの画像をみて、歯医者の先生は
『冷たい水や熱いお茶など、もの凄く痛いでしょう?』と聞いてきたが、
弱音を吐いたと思われたくないので、『いいえ』と答えた。
『飛行機に乗った時など痛むでしょう?』と聞かれたが
これも同様に、『いいえ』と答えた。

先生は不思議そうな顔をしていたが、
『とりあえず神経を抜きましょう』と言い出し、
本当に痛くないと思ったのか、麻酔もなしに神経を抜き始めた。

この痛みたるや、言葉に言い表わせないぐらい壮絶なもの。
『自分の神経ではない』と暗示をかけるのだが、まったく効かない。

身体をひねらせ、引き千切らんばかりに自分の服をひっぱり、
開いたままの口で『ウォー』と雄叫びを上げる。

どうも様子がおかしいと気付いたのか、
『痛かったら右手を上げてください』と先生に言われたが、
そんな助け舟に乗ってしまったら、いままでの努力が水の泡。

必死の思いで神経が抜けるまでの生き地獄に耐え切った。

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